MIX師に依頼するとき、なぜ頭出しが必要なのか? 失ってはいけない歌の「揺れ」

こんにちは、海金(@APSumikane)です。

 

 

歌ってみたを録音し、音源をMIX師に渡すとき、「頭出し」をしておく必要があります。

頭出しとは、カラオケ音源と録音音源の開始位置を揃えておくことを言います。

 

なぜ頭出しが必要なのか?

 

楽典ブログらしく、ちょっと楽典の知識を交えて説明したいと思います。

 

(覚えなくてもいいことは緑字で書きます)

頭出しが必要な一般的な理由――作業効率

「知ってるよ。あれだろ? 作業効率の問題だろ」

 

そう。それも大事な理由です。

 

音源の開始位置がバラバラだと、MIX師側で調整しなければならなくなります。

そして、これが思いのほか時間がかかるのです

 

これは、言ってしまえばムダな時間です。

 

歌い手側からならすぐにできることなのに、MIX師側から調整すると余計な時間を取られてしまう。

効率悪いですよね。

 

 

だから、

頭出しをしておくのはマナーだ

と言われることもあります。

 

私は上記のほかに、もう一つの理由を付け加えたい。

 

 

音楽の三大要素――リズム・メロディ・ハーモニー

音楽には三大要素というものがあります。

 

「急に何の話?」

 

まあまあ、聞いてくれや。大事なことなのだ。

 

音楽の三大要素、それは

・リズム

・メロディ

・ハーモニー

です。

 

多くの音楽は、この三つの柱によって成り立っている。

 

 

そして、この中で絶対に欠けてはいけないのは、リズムです

 

メロディやハーモニーが無く、「リズムだけの音楽」は存在しますが、

リズムが欠けている音楽なんて存在しないと言い切ってしまっても過言ではありません。

 

「あのさあ、メロディとかハーモニーってなに?」

 

メロディとは何か・ハーモニーとは何か……っていう哲学的な話?

 

「いや、単純に言葉の意味を忘れたw」

 

ググれや

メロディとは、まあ、曲の花形の部分です。

J-POPや洋楽で歌手が歌っているパート……あれは全部メロディです。

だから、歌い手さんが歌っているパートもメロディなんですよ。

 

厳密に言えば、メロディとは、音の高さが連続的に変化していくものを言います

 

ハーモニーは、曲の空気です。

聴き手が意識することはあんまりないけど、でも、曲の雰囲気を左右する重要なもの…それがハーモニーです。

いわゆるコード進行というものも、ハーモニーの一種です。

 

厳密に言うと、ハーモニーとは、和音の連結のことです

 

 

 

歌い手の歌の「揺れ」、そこに個性がある

さて、音楽の三大要素の中で、リズムが一番大事だということが分かりました。

それを踏まえて話を元に戻しましょう。

 

歌い手さんは、カラオケ音源を流しながら歌声を録音しますよね?

カラオケ音源のビートを感じながら、歌うわけです。

 

その結果、その歌には「揺れ」が生まれるわけですが、その「揺れ」の生み出し方は、歌い手さんによってかなり異なります

そこに個性がつまっているのです。

 

「揺れってなんやねん。そんなの一度も意識したことないわ」

 

 

歌い手さんが意識せずとも、自然に生まれてしまうものなのです。

「揺れ」というのは、ピッチとタイミングのわずかなズレです。

 

ただズレているという話ではなく、より人間らしさを感じるズレ・人間にしかできないズレです。

私はそのようなズレを「揺れ」と呼んで大事にしています。

 

ピッチが1セントもずれない、あるいは、タイミングがコンマ001秒以下もずれない機械的な音楽を聴いたことがありますか?

もんのすごい味気ないですよw

(わざとそういう機械っぽさを狙った曲もあります。ケロケロもその一種ではないでしょうか)

 

 

つまり、「揺れ」が音楽に色彩を与えるのです。

 

「ピッチの揺れ」がメロディを豊かにするのに対し、

「タイミングの揺れ」はリズムを豊かにします。

 

音楽の三大要素の中で、欠けてはいけないものはリズムです。

 

したがって、「ピッチの揺れ」よりも「タイミングの揺れ」の方がより音楽を豊かにする要素が大きいと考えられます

 

 

頭出しが必要なもう一つの理由――「タイミングの揺れ」が失われる

録音したデータには、歌の「揺れ」もしっかりと記録されています。

ですが、「タイミングの揺れ」に関しては、カラオケ音源のビートが前提にあります。

カラオケ音源とセットでなければ、「タイミングの揺れ」は失われ、「単なるタイミングのズレ」と化してしまうのです。

 

 

なぜか?

 

頭出しをしていない音源のミックス作業を想像してみましょう。

 

まず、DAW上で録音音源をカラオケ音源と合うように位置を調整します。

大体は合います。ですが、微調整が不可能なのです。

 

MIX師「ここのタイミングを合わせると、あそこがずれる。あそこを合わせると、そこがずれる。どこかのタイミングを合わせると、どこかのタイミングが必ずずれる\(^o^)/」

 

という状況に陥ります。

「タイミングの揺れ」が裏目に出ています。

その結果、補正ソフトでタイミングを始めから終わりまでガチガチに修正することになります

 

当然、「タイミングの揺れ」は失われます。

音楽で欠かせないリズム……そのリズムを彩る「タイミングの揺れ」が失われるのです。

 

 

では、頭出しをしていたらどうか?

 

MIX師「ここのタイミング、ちょっとズレてるけど、なんか……イイ感じ/// 残しておこう!!

 

MIX師が歌の「揺れ」を生かしたミックスをするようになるのです。

当然、頭出しがしていないものよりいい作品に仕上がります

 

 

これが、頭出しが必要なもう一つの理由です。

 

「まじかよ……頭出しって作品のクオリティにも関係してくるのかよ」

 

その通りです。

だから、私は頭出しをやっておくことをオススメします!

 

 

まとめとあとがき

最後にこの記事の内容をまとめます。

・音楽の三大要素はリズム・メロディ・ハーモニー。特にリズムは欠けてはならない。

・人間の歌には「ピッチの揺れ」と「タイミングの揺れ」が生まれ、それが歌い手の個性・色彩になる。

・「ピッチの揺れ」よりも「タイミングの揺れ」の方が音楽を豊かにする要素が大きい。

・「タイミングの揺れ」は頭出ししないと失われる。

 

 

「頭出しってどうやってやるんだっけ?」

 

それなら真闇(まや)さんの記事(MIXでよく聞く頭出し(頭合わせ)って?)を参考にするといいでしょう。

とても分かりやすい記事です。

 

さらにタイミングのわずかなズレを追求するなら、レイテンシの問題も解決しておくとよいでしょう。

(レイテンシについては、この記事では扱いません)

 

 

いかがでしたでしょうか?

 

歌い手「そんなことを言われても、、、頭出しができる環境にないんだよお!><」

という方もいるでしょう……。

 

別に私は、「頭出しをしない歌い手を絶対に許してはいけない!!」と言っているわけではありません

でも、頭出しができる環境なら、しておくことをオススメします!

 

それでは!

 

 

 

参考文献:

楽典 音楽家を志す人のための 新版(菊池有恒、音楽之友社、1988)

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